篠田 圭司氏
大阪市立大学大学院理学研究科生物地球系専攻
履歴
1963年10月岐阜市に生まれる。1987年3月京都大学理学部地質鉱物学課程を卒業後，同年4月京都大学大学院理学研究科修士課程に進学し，森本信男教授と北村雅夫教授の指導を受ける。1989年４月同博士課程に進学し，同年9月中退。同年10月大阪市立大学理学部地学科相川信之教授の研究室の助手として採用される。1994年3月理学博士号を取得。1995年4月講師となり現在に至る。
受賞対 象 論 文
Keiji Shinoda, Takaya Nagai and Nobuyuki Aikawa (2000)
Pressure-dependent anharmonic coefficient of OH in portlandite
by NIR-IRspectroscopy with DAC. Journal of Mineralogical and
Petrological Sciences, Vol. 95, No. 5, pp. 65-70.
業績
鉱物中の水の存在は鉱物の物性・挙動に大きな影響を与えることから，地球科学において広く関心が持たれている。篠田圭司会員は，これまで主に顕微赤外分光法を用いて，鉱物中の水の化学種およびその挙動に関する研究に取り組んできた。今回受賞の対象となった論文も，そうした一連の研究の中の一つと位置付けることができる。
今回対象となった論文は，ダイヤモンドアンビルを用いて加圧したポートランダイト（Ca(OH)2)中のOH基の挙動を，近赤外および赤外吸収スペクトルを測定することによって調べたものである。ポートランダイトはブルーサイトとともに，その単純な化学組成と構造から，含水層状構造鉱物の原型とみなされ，近年，特に高圧下での脱水過程，非晶質化過程が注目されており，多くの研究がなされている。しかし，その脱水，非晶質化のメカニズムの詳細については不明であった。本研究によって，加圧によるポートランダイトの非晶質化が振動分光学的に確認され，その非晶質化はH2O分子の形成によるのではなく，層間の水素結合がしだいに増大することにより誘起されることが，実験的に明らかにされた。また，OH振動の倍音による近赤外域での吸収ピークを測定することにより，OH振動の非調和性の圧力依存性をはじめて明らかにした。これらは，Ｘ線回折などでは検知できないOH結合および構造の変化を，近赤外・赤外分光法の特性を生かした手法で明らかにした意義深い成果と高く評価できる。
篠田会員は上記論文以外にも，赤外分光法によって水晶，トパーズ，ブルーサイトなどの構造中の水の挙動を明らかにする一連の論文を発表しており，その研究成果はいずれも高く評価できる。また，同会員は，現在，高輝度光科学研究センター（SPring-8）の赤外ビームライン建設グループに加わり，赤外放射光の特性を生かした赤外顕微鏡の立ち上げに従事し，高温ダイヤモンドアンビルセルを赤外顕微鏡下で稼働させる課題に取り組んでおり，その成果も期待される。
文献
1) Shinoda, K. and Aikawa, N., (1993) Polarized infrared absorbance
spectra of an optically anisotropic crystal: Application to the
orientation of the OH-dipole in quartz. Phys. Chem. Minerals,
20, 308-314.
2) Shinoda, K. and Aikawa, N., (1994) The orientation of the OH- dipole in an optically anisotropic crystal: an application to the OH- dipole in topaz. Phys. Chem. Minerals, 21, 24-28.
3) Shinoda, K. and Aikawa, N., (1994) Absorption coefficients of overtone and combination modes of quartz. Min. Mag., 58, 601-606.
4) Shinoda, K. and Aikawa, N. (1997) IR active orientation of OH bending mode in topaz. Phys. Chem. Minerals, 24, 551-554.
5) Shinoda K. and Aikawa, N. (1998) Interlayer proton transfer in brucite under pressure by polarized IR spectroscopy to 5.3 GPa. Phys. Chem. Minerals, 25, 197-202.
平成13年度日本鉱物学会論文賞選考委員会
留岡和重（委員長），赤井純治，赤坂正秀（副委員長），入船徹男，河村雄行，草地 功，堀内弘之，松井正典，宮脇律郎